「企業型DCを活用したけど、従業員がうまく活用できていない」せっかく導入したのになぜこんなことが起きるのでしょうか?
簡単に言ってしまえば、従業員に寄り添った設計がでてきていないことが原因なんです。
これは珍しいことではありません。実は、企業型DCの仕組みをきちんと理解して掛金を設定できる従業員は、それほど多くないのです。今回は、どうすれば従業員が「老後資金を積み立てよう!」と行動できる設計が可能になるのかを考えていきます。
なぜ従業員は掛金を拠出しないのか?
掛金の「適切な額」がわからない
企業型DCの税制上の枠は最大5万5千円です。しかし、この金額を聞いて「そんなに貯蓄に回せない!」と感じる従業員が多いのが現実です。実際、従業員が掛金を選択するような設計では、7割から8割の従業員が掛金を拠出できていない。と聞きます。掛金の目安がわからず、「自分には無理だ」と思ってしまうのです。
では、どの程度の掛金が妥当なのでしょうか?
目安として、平準給与(平均的な給与)の3%から6%が現実的です。例えば、月収20万円の人なら掛金は6千円、30万円の人なら9千円。これが、無理のない範囲での積立金額です。こうした具体例を提示することが、従業員の理解を助けます。
選択の多さが行動を妨げる
掛金額を決めるだけでも難しいのに、その上で運用商品を選ぶ必要があります。株式、債券、バランス型ファンド…専門知識のない従業員にとっては「どれを選べばいいの?」と混乱し、結果的に制度利用を諦める原因となっています。
行動経済学でも、「人は理解できないものに対して行動を起こさない」といわれています。企業型DCが自分にとってどんなメリットがあるのか?掛金の税効果や社会保険料の負担が減る結果どうなるのか?が分からなければ、企業型DCを自分にとっての「有益な制度」と認識するのは難しいでしょう。
解決策:従業員が行動しやすい仕組みを作る
選択肢を極力減らす
複雑な判断を従業員に求めるのではなく、選択肢を減らしてシンプルにすることが重要です。具体的には、企業が掛金額を年齢や役職に応じて設定したり、従業員には「掛けるか掛けないか」の一択だけを求めるくらいのシンプルさも時には必要です。拠出額については、
例えば、平均的な金額は?など示してあげることで選択しやすくなります。
<例>
- 新入社員 → 掛金5千円
- 課長 → 掛金1万円
こうすることで、従業員が迷うポイントをなくし、利用しやすい仕組みを作ることができます。
制度のメリットを分かりやすく伝える
将来の老後資金を作るだけでなく、税制の枠内で掛金を積み立てれば所得税や住民税が軽減され、社会保険料も下がる――この「仕組み」を従業員に理解してもらうことが大切です。
従業員の多くは、社会保険料に負担を感じています。できるだけ社会保険料を多く払って将来の公的年金を多くもらいたい。と言う人は周りにいませんよね。私も聞いたことがありません。どちらかといえば、「社会保険料の負担を減らして欲しい」「社会保険料が高すぎる!」という声の方が多いです。
ただ、企業型DCへの拠出によって、社会保険料の負担が減ることは、将来の年金額にも影響しますし、、傷病、介護休業の時に受けられる給付、育児休業給付、失業給付の計算にもかかわってきますので、その点もしっかり説明をして、不安を取り除いてあげなければなりません。
実際の手取りはどうなるのか?具体例にして、「企業型DCに2万円を積み立てた場合、実際に手取りは約5千円程度のプラス」図参照)という説明を行えば、従業員もイメージしやすくなるのではないでしょうか?
導入前に考えるべき仕組み作り
確定拠出年金は、財形年金とは異なり、退職金の代替制度です。企業型DCをより身近に活用していただくための仕組みづくりは「シンプル化」です。
- 掛金の目安を示す
平準給与の3%から6%を目安とした掛金設定が現実的であり、無理のない積立額(拠出額)です。 - 判断のシンプル化
従業員が迷わない制度設計をすることで、制度がより理解しやすくなり、利用率が上がります。 - 手厚いフォローが必要な場合のサポート
制度導入時には説明会を開催し、従業員の疑問や不安を解消する機会を設けることをおすすめします。説明会が難しい場合は、わかりやすい資料や動画を活用するのも効果的です。
まとめ:従業員の行動を促すシンプルな設計が鍵
企業型DCは、従業員の老後資金形成を支える重要な制度です。しかし、従業員がその制度を理解し、実際に行動するには、複雑な選択を減らし、シンプルな仕組みにすることが求められます。
「企業型DCで積み立てますか、それとも積み立てませんか?」
これくらい簡単な問いかけに落とし込むくらいの気持ちでシンプル化を目指し、従業員にとって利用しやすい制度を提供し、企業としての制度導入の目的をしっかり達成したいですね。
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